事例紹介

佐賀県佐賀市

文字同定作業を画像認識AIでDX化!
基幹情報システム標準化に向けた大きな一歩

[お話を伺った方]
佐賀市 市民生活部副部長兼市民生活課長 久富 和彦様
佐賀市 市民生活部市民生活課住基整備係長 石橋 幸二様

自治体が現行システムで使用している外字を、文字情報基盤文字と突き合わせて紐づける――文字同定作業は、国が令和7年度中の移行を視野に推進する「自治体情報システムの標準化・共通化」に際して必須となる最重要工程のひとつであり、どう対応するかが、全国の自治体において喫緊の課題となっています。

佐賀市では、従来は膨大な手間とコストを要した文字同定作業のDX化を念頭に、佐賀電算センター(以下SDC)との共同実証事業を通じて、SDCが開発した「文字同定AI」の有効性を検証しました。その経緯と成果について、佐賀市市民生活部副部長兼市民生活課長の久富 和彦氏、同課住基整備係長の石橋 幸二氏のお2人にうかがいました。

検証テーマ

  • 文字同定作業の負荷を、時間・コスト両面でどこまで軽減できるか?
  • 現在の外字を文字情報基盤文字でどの程度カバーできるか?外字の状況を正確に把握することで、システム標準化に向けた課題の整理・可視化につなげたい。

ソリューション

  • SDCが開発した「文字同定AI」を用いて、外字と文字情報基盤文字との画像マッチングを行う。文字同定AIでは、人が目で見るように文字を形としてとらえ、両者の類似度(マッチング率)を数値化できるため、マッチングの可否を短時間かつ容易に判定可能。

効果

  • 高精度の同定候補リストが短時間で出てくるため、工数・コスト削減に直結する。
  • 候補リストのマッチング率が高く、「もしかすると、これ以外に同定可能な文字が存在するかもしれない」という疑念を払拭できた。この安心感は大きい。
  • 同定不能外字も一定数あったが、それが分かったこと自体が大きな成果。国の方針・動向をにらみつつ、今後の対策を考えるベースができた。

佐賀発、全国へ。AIで外字同定作業を効率化する先進ソリューション

 今回の共同実証事業は、SDCの提案に佐賀市が応じる形で、令和3年末から約8か月間にわたって実施されました。実証に用いる「文字同定AI」は、画像認識技術を活用して文字同定作業の劇的な省力化・効率化を図る支援ツールで、SDCが佐賀大学との産学連携を通じて開設した「SDC R&Dセンター」にて開発した自社のプロダクトです。SDCからのオファーを快諾した理由について、石橋氏は次のように話します。


「本市では平成17年にも、汎用機からオープンシステムへの移行に際して大がかりな文字同定作業を行ったことがあり、その時は人が字形を比較して同定するアナログな作業方式で、アウトソーシングも含めて膨大な時間とコストを要したと聞いています。今回、その手間とコストをどう圧縮するか。それ以前に、そもそも本市が使用する外字を文字情報基盤文字でどの程度カバーできるのか、見通しが不鮮明なことが課題でした。当初から、同定できない外字が一定数出るだろうとは予測していましたが、同定不能文字の数や規模感さえ読めない状態では、対策の立てようもありません。その点、画像認識AIで字形を人が見るのと同じ感覚で比較したうえで同定候補文字を抽出するというSDCさんの提案には、そうした課題の解決に大いに役立ちそうだという確かな期待感がありました。また文字同定作業を進めるには包摂基準の策定が必要ですが、AIが挙げた同定候補の一覧を見ることで外字状況の全体像を把握しやすくなり、より実情に合った包摂基準を検討できるのも、大きなメリットだと感じました」

佐賀市 市民生活部副部長兼市民生活課長 久富 和彦様


 また久富副部長は、「外字の同定作業にAI技術を活用する発想は全国初と聞き、将来的には佐賀市発の技術開発事例として全国に発信できるのでは?と期待しました」と、別の観点から実証事業への期待感を明かしました。

PC画面を見ながら、ワンクリックで同定作業完了

佐賀市 市民生活部市民生活課住基整備係長 石橋 幸二様

 実証開始時点で、佐賀市基幹行政システムで取り扱う外字(漢字)は2300文字超。実証作業は、「これらの外字すべてについて、文字情報基盤文字との突合(マッチング)をAIで行う」「AIが抽出した同定候補文字をリストに落として人(職員)が同定作業を行いやすいフォーマットを作成する」という2点の検証目標を掲げてスタートしました。石橋氏は、「具体的な数値目標はあえて設定せず、AIが高精度の同定候補リストを短時間で出せるかどうかを見極めることに、検証の主眼を置きました」と振り返ります。


作業の手順は、まず佐賀市が提供した外字データを、SDCが文字同定AIを用いて文字情報基盤文字と突合し、同定候補文字リストを作成して佐賀市に提示。佐賀市の職員がそのリストをもとにPC上で同定作業を行う、という流れです。なお、文字同定AIの際立った特長は、ドットパターンを比較する従来型の方式とは異なり、文字を形として認識する画像認識AIを初めて採用し、人間が数値化できない「文字の類似性」をマッチング率=類似度としてパーセンテージ表示する点にあります。


 候補リストのフォーマットは、同定作業のしやすさを考慮してMicrosoft Excelを採用。PC画面上にマッチング率の高い順から候補文字①~⑤を表示されるので、文字選択はワンクリックで完了です。文字の拡大・縮小も自由自在で、職員の皆さんにも「確認しやすい」と好評でした。

定期的な検証ミーティングで機能を拡張し、使い勝手を改良

 実証中は、同定作業がある程度進んだ段階で定期的(月1~2回)に検証ミーティングを実施し、精度の評価やリストのフォーマット改良などの検討を行いながら進めました。ミーティングには、システム標準化を統括する佐賀市デジタル推進課の担当者やSDCの開発エンジニアも参加。新たな機能拡張の可能性についても議論し、住基ネット統一文字とのマッピング表を文字同定AIに取り込んで自動的に突合させる新機能を追加する場面もあり、同定作業効率の向上につなげました。また、佐賀市からの要望に応えてリストに加えたコメント欄も、作業の円滑化に大いに役立ったようです。


「各外字に設けたコメント欄に、微妙なデザインの違い、同定の根拠、判断保留とその理由など、作業者が同定作業中に感じたポイントや疑問などをその都度記入。別の作業者が後から見ても当該外字に関する留意点がわかる作業履歴として機能しています」(石橋氏)

候補文字の抽出は、所要1分弱。マッチング率も高精度

 こうして、文字同定AI共同実証事業はスムーズに進み、当初の予定通り令和4年夏に完了。その成果について、石橋氏は「当初の目標を達成し、期待した成果が十分に得られたと考えています」と話します。「顕著な成果は、文字同定AIの精度の高さを実証できたことです。マッチング率が高い同定候補リストが短時間で提示されるので、工数削減、コスト削減に直結します。またマッチング率と目視での字形比較に違和感がなく、同定の根拠としても有効です」


 ちなみに、文字同定AIが候補抽出に要する時間は1分弱。マッチング率は第1候補で90%超、第2候補まで含めればほぼ100%に達し、候補リストも1日以内に提供可能です。同定精度はもちろん、人が目で見て比較する従来方式では候補リスト作成に2週間~1か月を要していたことを思えば、工期短縮とコスト削減に向けた効果のほども明らかです。


候補リストにあげられた文字以外に同定可能な文字は存在しないだろう、と納得できる安心感

 「見逃せないのは、候補リストにあげられた文字以外に同定可能な文字は存在しないだろう、と納得できる安心感です。目視で候補を探す手法では、こうはいきません。この点も外字同定にAIを活用するメリットで、現場感覚としても非常に大きなポイントだと思います」


 なお、文字同定AIを用いて同定できなかった文字も一定数ありました。


「比較的使用頻度の高い外字が文字情報基盤文字に用意されていない例も少なくなく、驚きましたが、同定不能な外字があることは想定内。同定できない外字の規模感を把握できたこと自体が、当初からの検証テーマであり、システム移行本番に向けた大きな成果、と受け止めています。今後は、国が示す外字の取扱い方針の推移を見ながら、同定方針について検討していくことになります」と石橋氏。令和7年度中の標準準拠システムへの移行を視野に、業務の洗い出しや計画立案、システム選定、移行テストなど、引き続きさまざまな作業が待ち受けています。


「標準化を進める過程で、あらためて外字同定の工程を設けますが、今回の成果をそのまま活用できるので、実証前の想定より短期間で済むだろうと考えています」と石橋氏。外字同定の取り組みは、標準化作業全体から見ればほんの一部にすぎませんが、今回の実証事業は間違いなく、標準化の取り組みを力強く前に進める大きな一歩になったといえるでしょう。

共同実証事業の成果を糧に、自治体DXをさらに前へ

 最後に、久富副部長に今回の共同実証事業を総括していただきました。


「全20業務に及ぶ基幹情報システムの標準化は、国が主導する自治体DXの一環ととらえることができます。市民生活課でも、総合窓口システムの見直しや、そもそも窓口に来なくても、書類を書かなくても済む仕組みの検討など、さまざま場面でDX化への対応を求められています。そうした中で日々模索し、試行錯誤を重ねているのが、私たちの現状です。今回の実証事業のような試みは、どの自治体もノドから手が出るほどほしい提案だったといえるのではないかと思います。もちろん佐賀市もそうでした。今回検証した手法は、どの自治体でも活用可能で、手間とコストを抑える十分な効果があると思います」


 システム標準化に向けて、どの自治体も避けては通れない外字同定。佐賀市での良好な検証結果もあり、文字同定AIへの引き合いはすでに全国50以上の自治体にのぼっています。

佐賀県佐賀市のご紹介

所在地 佐賀市栄町1‐1
人口・世帯数 229,433人 102,377世帯(令和4年3月末時点)
面積 431.82平方キロメートル
URL https://www.city.saga.lg.jp/

 山ろく部の清流や温泉、中心部の長崎街道や幕末維新期の佐賀の魅力を紹介する佐賀城本丸歴史館、佐賀平野のクリークや田園風景、筑後川にかかる昇開橋、そして有明海と干潟の個性的な動植物など、多様な魅力を備える。

 平成27年5月には、シギ・チドリ類が飛来する有明海の「東よか干潟」がラムサール条約湿地に登録され、同年7月には、日本初の実用蒸気船が造られた「三重津海軍所跡」が「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」のひとつとして、世界文化遺産に登録された。

※掲載内容は取材当時のものです。